2013年1月8日初出とかいう、とてもいにしえのやつ。
戦っているだけの殺伐SS(2800字程度)。
今のヘクレイ観と異なる部分が多いですが、まあ記念に残しておこうかなと…(この頃はレイモンド幼少期は髪伸ばしてそうとか考えてました)
タイトルは某曲(アリボーの〇int〇am提供曲)の歌詞から 個人的イメソン
火蓋はガラス瓶が落ちる音と共に切られた。
熾烈を超えた、もはやそれは恋人との躍りとも比喩できるのかもしれない。
冷たい剣先という名の獣が俺の喉元を食らおうと、暗闇の室内を駆け巡る。戦場というには狭すぎるこの部屋で、俺と彼奴、二匹の獣が対峙している。
きっとそこは戦場として相応しくない舞台に違いないのだろう。暴れまわる苛烈さをこんな場所に留めておくのは勿体無いと、そう考えてしまう自分自身に対し、俺は気が狂れたように笑いそうになった。
必殺の剣と獰猛な斧が火花を散らす。ギリ、と互いの熱をぶつけ合い、一歩も引かない。鈍く光る銀色の剣、その奥に見える血のように赤く紅い瞳に思わずゾクリと武者震いを覚えた。
そんな細腕にどうしてこのような力があるのだろう。
鋭く、まるで血で出来た氷細工の瞳の奥に、どうしてやるせなさを感じるのだろう。
憎悪を、全てをぶつけてくるその瞳は強すぎる――捕らえて離さない。そして、何処か危うさを秘めているのだ。
「ハッ――、手前、マジでこのタイミングで仕掛けてくるなんてな」
互いに込めすぎた力は互いの体を弾き飛ばし、また一定の距離を作る。
暗闇だというのに、唯一の光といえば窓の外から微かに注ぎ込まれる月光だけだというのに――彼奴の血色の髪と双眸は引き立って見えた。
俺はその持ち主を知っている。
戦場で、自然と隣にいたのはまぎれもなく目の前の彼だ。同じ前線に立つ軍の筆頭として、いつの間にか互いに背中を守りあっていたと、先程まではそう信じていた。
彼奴は直ぐ様割れたガラスの破片を手に取りこちらに投げる。それを条件反射で横に少し飛び退くことで回避を試みたが、僅かに頬を掠めた。舌打ちをすると同時に、すぐ目の前に憎たらしいほど整った顔があることに気が付いた。
しまった、と無意識に思うがその剣が己を貫くその前に頭突きをかます。さすがに脳天が響いたのか少しひきつった彼の表情を見て、ハハ、ざまあみろ――と内心で歓喜を口にしながら相手の右脇腹に蹴りを入れる。
それを察知していたのであろう、彼は俺からみて左の方向に飛び退き、その被害を最小限に留める。だがやはりこの蹴りの重さは伊達ではない。華奢な体は吹っ飛び――体勢を変え、壁に着地する。
そしてその反動でこちらに飛び掛かり、肩を鈍く輝く牙が貫いた。
「ガ、ァ――ッ!」
鎧を身に纏っていないがために、その痛みは普段の戦よりも鋭く――熱さが全身を駆け巡るのを痛いほどに感じた。やはり斧に剣は相性が悪い。
俺の身体を蹴り飛ばすと共に剣を引き抜き、空中で一回転して距離をとって着地する。ああ、この戦闘体制は、確かにあの憎たらしい傭兵そのものだ。
俺の肩から流れる血を見て、傭兵の口許は弛んでいた。いつもぶっきらぼうで、無愛想だったあの顔が、こんな冷たい歓喜の笑みを溢すとは。
そしてその笑みを見て、ゾクリと己の中の獣が咆哮する自分もまた異質なのだろうか。
「オイ手前クソ傭兵――どういうことか説明してみろよ、アァ?レイヴァンさんよォ」
そうだ、俺は相手をよく知っているつもりだった。キアラン候に雇われていた癖に、そのキアランが敵勢に落とされた途端に寝返り俺達に対峙した腕のたつ傭兵。いつの間にか仲間になっており、俺は内心苦言を漏らしていたが、実際戦わせるとその強さに味方すらも圧倒される――そんな、孤高かつ気高き傭兵。
レイヴァンは小さく息を吐き捨てる。こちらを睨み付けるその瞳は俺の支配欲を駆り立てて仕様が無い。この猛虎を屈服させ、首輪を嵌め、己の方が強いと、己がお前を飼い殺すのだと――そんな絶望を突きつけてやりたくなる。
「オスティア候は、死んだ」
ぽつり、と冷淡に告げられた現実。俺は激昂しそうになるのを抑えた。別にその真実から逃れたい訳ではない。ただ認めるのに時間がほしいだけだ。
なのに傭兵は残酷な現実を、つい先程実の兄の死を告げられた俺に突きつける。冷や水を頭から被せたかのように頭の血が冷たくなるのを感じた。ふざけるな、俺はお前に呑まれない。それこそ、お前を苦しめるのはこの俺だ。
「もっと無様に、もっと醜く、俺が殺してやりたかった。いつか必ずこの手で、オスティアの全てを壊そうと、そんな切望だけが俺を生かしてくれた」
淡々と、感情を読ませない表情と声色。けれど今までに、俺はその瞳が何度か憂えを帯びていたことを思い出す。一人でいるとき彼はぼうっと遠く彼方を眺めながら、ただただ沈黙を貫いて。いつもリキアの方を眺めて、その時だけは郷愁にかられているようで。
――そういえばずいぶん昔の事、貴族の集まりがあったときに子供たちだけは一室に押し込まれたことがあった、と場違いなことを思い出す。俺はエリウッドと遊んでたが、ただ一人、黙々と本を読んでいた少年がいた。周りは下級貴族と鼻で笑っていたにも関わらず、そんな戯れ言を耳に入れるつもりもないのかひたすらに勉学に励んでいた、エリウッドより暗い赤色の髪。
幼いながらに綺麗だと思っていた。いくら芸術方面に疎い餓鬼であっても、彼から滲み出る気品は――エリーに比べれば劣るとはいえ――本物であった。そもそもエリーのものと彼のものは根本的な質が違う。どちらも磨かれたものであったことには違いない。
声をかけた、勉強なんかしていないで俺たちと遊べと。彼は嫌そうな表情を少々浮かべながらも親からの言いつけだったからなのか従った。遊びというよりかは手合いだったから引き受けたのかもしれないが。
将来は美形になるな、雰囲気が精錬されているなと常々思った。ある意味で彼は、地位とか身分と言う枠には縛られない……手に触れるには畏敬であり畏怖の対象だったのではないかとすら今では思える――。
「オスティア候は逝ってしまった。ならば、次は貴様の番だろう」
何故、こんなことを思い出したのか。その理由はわからない。いや、わかりたくないだけかもしれない。目の前の彼とその少年が重なって見えるのは単なる偶然だと思いたいだけなのだ。
「ハッ――上等だよ」
改めて得物を構える。大丈夫だ、俺は迷わない。俺の腸を食い荒らすかのように暴れまわる狂狂とした獣を押さえることはしない。
どうしても。どうしてもこの苛立ちを、震怒を、哀咽を――目の前の男の中に吐き出したくなったのだ。
お前なんかに俺の兄を侮辱されてたまるかと。
お前なんかにかつての思い出を汚されてたまるかと。
汚されるのならいっそ、お前を汚してからだ。お前を屈服させ、力ずくで押さえ込んで、その自尊心を滅茶苦茶にしてやりたい。
「手前に教え込んでやるよ――たかが傭兵一人が傲ってるんじゃねえってな!」
そうだ、教えてやる。
敗者は勝者に従わなければならないと言うことを。
お前は、俺のものだということを。